シリーズ「機械系教員が語る鉄道よもやま話①」

この度機友会メーリングリストを開設しました!
開設第1弾として、10回シリーズで理工学部機械工学科 上野 明 教授の「機械系教員が語る鉄道よもやま話」を連載します。
皆様是非お読み下さい。 

「機械系教員が語る鉄道よもやま話①」

 機械工学科1981年度卒業(大学院1983年度修了)で,現在は機械工学科の教員の上野 明です.機友会ニュースデジタル版は盛況で,沢山の投稿していただいていますが,研究の内容等,真面目?な話題が多く,単発物でしたので,今回からしばらくの間は,小生の趣味のネタ(鉄道ネタ)&連載物を投稿します.ご興味のある方は,お読み下さい.まずは,連載1回目です.

 近鉄編(その1 奈良線,京都線):

 近畿日本鉄道(通称:近鉄)は,路線距離501.2kmの日本最大の私鉄です.[保有車両最多の私鉄は東京メトロ] 近鉄の成り立ちは複雑で,1914年に大阪・上本町?奈良間で営業運転を開始した大阪電気軌道を祖として,幾多の合併・分離を繰り返して現在に至っています.歴史も古く,路線距離も長いことから(鉄道フアンにとっては)興味深いことも多いため,その幾つかを紹介します.なお,近鉄の成り立ちをまとめたノンフィクションの「東への鉄路 近鉄創世記 上・下巻(木本正次著,学陽書房)」という単行本があり,近鉄ファンにはお薦めしたい図書です.

 大阪と奈良の間には「生駒山地」があるため,JR線は生駒山の北(学研都市線)および南(大和路線)を迂回していますが,近鉄の前身である大阪電気軌道は,大阪・奈良間を最短で結ぶべく,全長3,388mの生駒トンネルを掘削しました.完成当時(1914年)では,国内で2番目に長いトンネルでした.(最長は,現・JR中央本線笹子トンネル.複線用トンネルでは生駒トンネルが最長)

 生駒トンネルの工事は難航を極め,落盤事故も発生して工事費も膨らみますが,工事を請け負った大林組の当時の社長は私財を投じて難工事を完了させました.現在の近鉄奈良線は,1964年に完成した新生駒トンネル(全長3,494m)を使っていますが,旧・生駒トンネルの一部は,近鉄けいはんな線生駒トンネル(全長4,737m)として利用されています.

 大阪電気軌道は生駒トンネルの工事費が膨れあがったこと等により,切符の印刷費も支払えないほどの深刻な経営難に陥ります.そのため,大阪電気軌道が開通したことで参詣客が増えた宝山寺(通称・生駒聖天)から賽銭を借りることで急場を凌ぎました.このお礼の意味を込めてか,大阪電気軌道は,生駒駅から宝山寺駅までの間に日本で初めてのケーブルカーを敷設し,1918年から営業運転を始めました.このケーブルカーは,現在でも近鉄生駒鋼索線として運用されています.

 近鉄京都線の前身は,奈良電気鉄道です.奈良電気鉄道は,私鉄の路線がなかった古都京都と古都奈良の間を結ぶべく,1928年に京都?西大寺(現・近鉄大和西大寺)間の営業運転を始めます.路線の途中に宇治川(淀川の上流)という川がありますが,当時は陸軍の演習場になっていたため,宇治川の河原内に橋脚を建てることができませんでした.そのため宇治川を跨ぐ「澱川橋梁」は,日本最長の長さ164.6mを誇る単純トラス橋として建設されました.なお,澱川橋梁を京都側へ越えたところにある桃山御陵前駅からは,鉄筋コンクリート製の高架になっています.桃山御陵への参詣者の妨げになる踏切を設けないよう,当初は地下線が計画されましたが,周辺一帯は「伏見酒」の生産地であり,地下線建設に伴う地下水の枯渇の恐れがあるため,高架線に変更されました.

 京都線の京都側の終点は京都駅です.当初,奈良電気鉄道は,京都駅の手前から地下へ潜り,現・JR京都駅正面(京都タワー側)に地下ターミナルを作る計画を立てていました.しかし,1928年11月に京都御所で開催の昭和天皇即位大祭典に間に合わないことがわかり,急遽,八条口側に仮設駅を設けるように計画変更しました.その後も地下ターミナルは実現しないままでしたが,1964年に運転開始した東海道新幹線の京都駅は八条口側に設けられたため,京都駅で降りた新幹線利用客が,スムーズに近鉄に乗り換えできるようになり,仮設駅のままであったことが功を奏しています. 
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