「ナノテクノロジーを用いた軽金属材料の創製とその機械的性質」
機械工学科助教 小川 文男
機械工学科に助教として勤務しています小川と申します。2015年より材料強度評価研究室にて勤務しています。研究室では火力発電所の蒸気配管などで用いられる鋼材の高温クリープ疲労、電子デバイス用はんだの疲労特性に関する研究を行っています。また、博士論文の続きの研究を行っています。今回の記事は私が博士の学位をいただいた研究について書かせていただきます。私は2014年6月に「カーボンナノファイバー強化アルミニウム基複合材料の特性に関する研究」というテーマで早稲田大学から学位をいただきました。アルミニウムをナノ材料であるカーボンナノファイバーで強化した材料(複合材料)の作製法と機械的性質を研究したものです。近年、カーボンナノチューブ(CNT)が新材料として注目されています。CNTは高強度であり、熱伝導率、導電率に優れることから、さまざまな材料を強化することが出来る材料として注目されています。アルミニウムなどの金属をCNTで強化することで、強度、熱伝導率、電気伝導率に優れる材料が得られると考えられています。主な適用は自動車などとなっています。強度を向上させるという観点からは、CNTの方向を揃えること、アルミニウムとCNTの界面の強度を適切に設計することが重要であると言われています。ただし、アルミニウムとCNTの界面の強度は弱く、濡れも悪く、さらに高温での反応により、CNTが炭化物になってしまい、機械的性質が低下するという問題があります。そこで、化学気相成長法(CVD法)の一種で、事前にCNTにアルミニウムをコーティングしておくという課題に挑戦しました。石英管中で金属の粉末とハロゲン系の物質を熱処理すると、ハロゲン化金属ガスが発生して、その分解により、金属が蒸着されます。図1はアルミニウムをコーティングしたCNFを透過電子顕微鏡(TEM)で観察した結果です。左側(a)が明視野像で、右側(b)がアルミニウム原子をマッピングしたものです。緑色の点がアルミニウム原子になります。CNFにアルミニウムが比較的均一にコーティングされています。より高倍で観察していくと、蒸着されているアルミニウムはナノサイズの金属結晶から出来ており、CNFとの境界で原子レベルの結合が存在することが分かりました。このアルミニウムをコーティングしたCNFを粉末冶金法によりアルミニウムの中に分散させると、凝集しづらくなり、複合材料の強度が上昇することが分かりました。さらに、このCNFから多孔体を作製し、その上部にアルミニウム片を設置して、高純度窒素雰囲気でアルミニウムを溶融させると、多孔体にアルミニウムが溶浸する(染み込む)ことが分かりました。このコーティング法は他の金属にも応用することが出来、CNTにニッケル、シリコン、チタンがコーティング出来ることが分かりました。
図1 アルミニウムをコーティングしたCNFのTEM写真 (a) 明視野像 (b) アルミニウム原子のマッピング結果
また、粉末冶金法において、混合条件を最適化することで、CNTを分散させ、かつ混合中の破壊を最小限に抑え、材料を作製するということを行いました。これにより、260nmほどのサイズのアルミニウム結晶の中にCNTが分散されている材料が得られました。押出加工によりCNTの方向を揃えた材料の応力-ひずみ線図を図2に示します。アルミニウムと比べて、CNTを添加した材料は強度、延性ともに優れており、さらに直径の異なる2種類のCNTを用いたところ、直径の小さなCNT(CNT2)を用いたほうがより強度が高く、伸びるということが分かりました。これらの強度は、CNTの含有率と強度から、強度を計算する複合則のみでは説明できず、金属の結晶粒のサイズ、転位の影響を考慮して初めて説明できることが分かりました。このように、適切に材料を作製すると、ナノ材料を添加した金属では独特の現象が起きて、強度が向上して伸びるようになることが分かりました。今後は有限要素法などの数値シミュレーションにより、強化と破壊のメカニズムについてさらに検討するとともに、疲労特性なども明らかにしていきたいと思っています。さらに、これまでに確立した材料作製法をさらに発展させ、工業的に’実際に使える材料’の創製を目指して研究を行っていきたいと思っています。
図2 直径の異なる2種類のCNTを用いたアルミニウム基複合材料の応力-ひずみ線図
複合材料という単語を聞かれると、航空機に用いられているプラスチック基複合材料を思い浮かべる方が多いと思いますが、金属の複合材料も存在し、そこにも材料創製の科学や、機械的強度に関する力学があることを知っていただけたらと思い、筆を取りました。今後ともご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。