機友会ニュースデジタル版第113回 新任教員の紹介 渡部 弘達 先生

2021年4月に着任された先生方を紹介します。今回は渡部 弘達 准教授です。

「マルチスケールなものづくり」

はじめまして.2021年4月に機械工学科に着任しました渡部弘達と申します.まずは,簡単な自己紹介をさせて頂きます.私の出身は宮城県仙台市です.仙台生まれの仙台育ちです.東北大学で噴霧燃焼に関する研究で学位を取得し,その後,東京工業大学で石炭燃焼や燃料電池といったエネルギー変換に関する研究を進めてまいりました.関西での生活ははじめてです.お休みの日に喫茶店でコーヒーを飲みながら文章を書くのが好きなのですが,今も近所の喫茶店で,聞こえてくる関西弁と小倉トーストに新鮮さを感じながら,本稿を書いています.

さて,研究についてです.枯渇性エネルギーの大量消費社会の上に成り立つ現代社会は,地球温暖化など,さまざまな問題が指摘されており,再生可能エネルギーを取り入れた持続可能な循環型社会の形成が望まれています.その一方で,天然ガスや石炭等の炭素資源が安定なエネルギー源であり,現在のエネルギー変換や化学プロセスにおいて重要な役割を担っている現実を考えると,炭素資源を活用しつつ,循環性を維持できるシステムに向けた炭素資源の革新的利用技術の開発も重要です.燃料電池は,燃料が有する化学エネルギーと電気エネルギーを相互変換できる可逆的な特性があり,循環型社会に適合した特性を持ちます.また,スケールメリットが基本的に存在せず,小規模でも高効率発電可能であることから分散型電源としての利用にも適しています.燃料電池の燃料は水素である場合が多いのですが,炭素資源を燃料とすることも可能です.水素社会の実現に向けても,炭素資源のこれからの利用を考える上でも,燃料電池は重要なデバイスといえます.

この4月にスタートした私の研究室では,炭素資源の次世代利用と燃料電池システムを主なテーマとしています.燃料電池の心臓部にあたるのが電極です.電極を設計するためには,まず,電極でどのような反応輸送現象が起きているのかを明らかにする必要があります.電極性能を決めるのは,マクロ的な物性値ではなく,欠陥などの原子レベルの局所構造の場合もあり,電極で起きている現象はあまりわかっていないことが多いのが現状です.言い換えれば,燃料電池システムのさらなる高性能化,高機能化が期待できるということになります.これまでは実現できなかった電極機能を引き出すためには,原子スケールからマクロスケールに至るマルチスケール的な視点からの「ものづくり」が必要になります.当研究室では,実験科学を主体としつつ,第一原理計算という計算科学も併用し,電極で起きている現象をマルチスケールで観察し,現象の本質をとことん突き詰め,新しいデバイス開発につなげていく研究活動を進めています.今,日本のエネルギーは過渡期にあります.ものづくりの基盤を支える機械工学は,ニューノーマルを切り拓く重要な学問のひとつです.電極設計を素材としたマルチスケールなものづくりを通して教育研究を進め,これからのエネルギー産業の発展に貢献していければと考えています.

機友会ニュースデジタル版第113回
図:マルチスケールなものづくり(Ni/YSZ電極)
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