機友会ニュースデジタル版 第2回 ロボティクス学科 川村貞夫先生「2017年ロボットに考える」

機友会ニュースデジタル版第2回は、ロボティクス学科 川村貞夫先生の『2017年ロボットに考える』です。

日本経済新聞の記事とあわせてお読みください。

2017年ロボットに考える

立命館大学 理工学部 ロボティクス学科教授

立命館大学 総合科学技術研究機構 ロボティクス研究センター長

日本学術会議機 械工学委員会 ロボット学分科会 委員長

川村 貞夫

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ロボットをめぐる現状

1970年代においても、ロボットはアニメやSFの世界の話で、大学の研究ではないとの一般認識が強かった。私が1981年に大学院でロボットの研究を選択した時においても、ロボットで就職できるのかと両親は不思議そうにしていた。その後、産業用ロボットと呼ばれる機械システムが、日本から数多く製造され、車や電子機器の製造に必須の生産機械となっている。日本は産業用ロボットの製造台数で世界のトップを走ってきた。ただし、ここ数年は中国、韓国、ヨーロッパのロボット製造メーカの追い上げが凄まじく、今後も日本が世界のトップに君臨できるかは微妙な状況にある。

ロボットの定義

ロボットの定義は今もあいまいである。通常、形態または機能が人間や生物に近い人工物を総称している。より広く考えると、この実世界を認識、判断、行動する人工物となる。しかし、ロボットをめぐっては、不明確な点も多い。たとえば、お掃除ロボットは、形態は人や生物ではないが、機能として「ロボット」の名称を獲得した。一方で、自動改札機は、「ロボット」とは呼ばれない。今後、自動車、エアコン、冷蔵庫、住宅などがロボット化される方向である。

ロボットの混乱と誤解

目的とする機能が満足できれば、名称は大きな問題ではないとの意見もある。一方で、不明瞭な定義のために、混乱や誤解も生じる。たとえば、「人型ロボットの方が人間に近いので、人の生活環境で動作することに適している。」との意見は、あまりにおおざっぱな理論展開であり、工学的ではない。工学的には、同じ機能を実行できるのであれば部品数が少なく、保守点検が容易な機械が優れている。しかし、マスコミでは人や生物の形態に類似のロボットが登場した方が、視聴者の関心を簡単に集められ、人型ロボットは人に近く何でもできると理解される。

人が自分と同様の形態物に共感して、古来よりロボット以外にも様々な人工物が作られてきた事実がある。このようなものの多くは、主に芸術、宗教、娯楽として重要な役割を果たしてきた。また、義手や義足などは形態の類似性が工学的な目的となる。一方、一般的な作業等で有用な機能を期待するロボットには、工学的設計が必要となる。かくして、掃除は人型ロボットが箒を使うのではなく、現状のお掃除ロボットとなった。

人工知能とロボット

人工知能が囲碁の世界トップレベルに勝利したニュースが人々を驚かせた。多くの報道では、「人工知能=ロボット」と説明をしている。しかし、これは明らかな誤りである。ロボットは、「実世界を認識、判断、行動する人工物」であるので、人工知能の「計算機とネットワークのみの仮想空間」とは異なる。たとえば、ターミネータという映画の筋書きでは、革命的な知能が発明されたので、ターミネータという強力なロボットが実現できたことになっている。しかし、あの破壊力を生み出すエネルギー源は何か、駆動システムは何か?現在のモータやエンジンでは不可能であるので、革命的な技術が必要となる。さらに、実世界のセンシングする技術も現状では不十分であり、こちらにも革命的な技術が不可欠である。知能を拡大して話を作った方が、一般的に面白く、理解が容易であるために、世間には広まる。私は、可能な限り一般向けの講演会等で、駆動やセンシングがロボットにとって重要であることを強調しているが、長い歴史のSFや映画に対抗することは容易ではない。実は、ロボットの駆動やセンシング分野は日本が得意であり、今後も優位性を保つことが期待されている。

ロボット/人工知能が発達すれば仕事は無くなるか?

ロボット技術は、家電製品、自動車、医療、福祉、軍事などに利用されている。センサ、駆動システム、コンピュータのロボットの各要素は、利用技術を含めて性能が急速に向上し、ロボットの実現を容易にしている。この技術的進歩と先進国の少子高齢化,労働人口減少,医療/福祉などの課題解決をロボットに求める2つの理由で,現在の世界中のロボットブームが起きている.

ロボットが発達すれば、人の仕事は無くなるとの心配がある。これは、正しくもあり、誤りでもある。基本的に現状のロボットの技術はまだまだ未熟であり,今後の研究開発が必要となっている。たしかに、電卓、ワープロが出現して、失われた仕事があるものの、電卓やワープロ(現在ではPC)を使いこなす新しい仕事も生まれている。人にとって、過酷、危険、単純な仕事はロボットに回して、別の新しい仕事を生み出すことになると思われる。ロボットや人工知能を適切に利用する人は、今後ますます必要となると思われる。現状の日本は、労働者数が少なく人の労働のみでは社会を維持できない状況となることは明らかであり、ロボット技術によって、医療、福祉のみならず製造業を活性化することが期待されている。

ロボティクス学科

ロボットを実現するためには、従来の機械、電気、情報などの幅広い知識や経験が必要である。しかし,既存の個別分野で人材育成をしていると、どうしても分野の壁を作り易い傾向がある。また、既存分野を横断する学問領域は、なかなか日本から生まれにくい。欧米では、学部と大学院を別の分野を選択することは珍しくない。日本では、このようなケースは圧倒的に少なく、日本の教育では分野横断力養成は決定的に弱い。そこで、1996年に立命館大学では、システム統合型のロボティクス学科を設立し、現在までに1500人以上の人材を社会に送り出している。この学科は、日本で初めての学科であり、世界的にも学部教育としては、おそらく初めてと思われる。設立前には、「ロボットは既に応用分野で大学の学部教育にはふさわしくない」、「国立大学にない」、「カタカナの学科名は従来ない」など沢山の御批判を学外から受けた。多くの課題を持ちながらも、設立から20年となり、日本国内には10を超えるロボットの学科が設立された。また、海外にもロボット関連の学科が生まれ、本学のロボティクス学科を見学する状況となっている。卒業生は分野横断力を生かして、社会で活躍している。要素に限定せず、システム全体での機能の設計と実現ができる人材は、今後も多くの分野で有用と思われる。ただし、常に各既存分野の新しい技術を導入することが重要であり、今後の卒業生の不断の努力に期待したい。

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