機友会ニュースデジタル版第146回「ダイヤモンドの養殖」 田中 武司 氏(機械工学科 昭和39年卒業、立命館大学名誉教授)

 今回の機友会ニュースは、元機械工学科教授の田中武司氏が研究している「ダイヤモンドの養殖」について、取り上げたい。
 ダイヤモンドの人工合成は高圧高温法(HPHT法)、化学気相蒸着法(CVD法)、爆轟法(Det.法)により行われていることはよく知られている。これらの3つの方法と並存する合成技術が、立命館大学 田中武司 名誉教授により新たに開発された{[論文]田中武司: ダイヤモンドの液中合成法の研究‐化学変化・切断・析出と自己組織化・自発的集合化を目指した技術開発,精密工学会誌,89, 1 (2023) 113.}。原理はこうだ。アセトンと有機高分子からなる炭素化促進剤と、KOH水溶液と蛋白質/炭水化物からなる炭素化原料を混合する。化学変化により溶媒中に生じる活性炭素種や有機化合物を、紫外線により分解し、溶媒中に過剰な炭素分子を析出する。生成した炭素分子がダイヤモンドの上に、雪のように積り、ダイヤモンドの結晶となって成長していく人工現象であるらしい。ダイヤモンドも炭素の結晶体であるならば、化学変化により合成できてもよいではないかという説を地で行ったような感じだ。学術的には合成というべきであるが、炭素分子が積層するのに時間がかかるゆえ、養殖という商業用語が用いられているのであろう。これは液中養殖法ともいえる方法である。
 宝飾用ダイヤモンドの養殖は主にCVD法により行われており、ダイヤモンド基板から大きく成長させる必要がある。液中養殖法では薄膜成長であり、ダイヤモンド原石を大きく成長させるには長時間の養殖期間を必要とするといわれている。しかし、大きな結晶ができれば、天然ダイヤモンドの採掘に、多大なエネルギーを消費し、環境悪化を起こし、過酷な環境で働く、諸問題を解決できる可能性もあると期待されている。
 現在、天然ダイヤモンド{[写真]天然ダイヤ上で広がった“養殖ダイヤモンド”の薄膜}や多結晶ダイヤモンド基板の上に薄膜が養殖されている。これらの養殖ダイヤモンドはダイヤモンド電池などに利用されるようだ。ボイジャー1、2号機が発射から約45年後の今、この太陽系から脱出し、漆黒の闇の中を飛び続けている。微弱な電波を地球に送り続けている電源は原子力電池だ。夢のあるダイヤモンド電池の製造法になるかもしれない。
 まだ、養殖の初期段階で、基礎として、ダイヤモンド生成の反応場をみつめなおし、反応場の炭素分子や電子の挙動をみたい。技術として、大きなダイヤモンド結晶や微小なダイヤモンド粒子の創成、あるいは多結晶ダイヤモンド基板の上に、100 µm位の厚膜やN/Bドープダイヤモンド半導体などを創り、独創的・先進的な研究・実験を続けたいと言われている。
 約60年を経ようとしているダイヤモンドの研究の集大成である本研究を、故田中義信先生、故井川直哉先生、故大南正瑛先生に捧げるとのことである。 
天然ダイヤ上で広がった“養殖ダイヤモンド”の薄膜

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