機友会ニュースデジタル版第148回 山根大輔 先生「IoTセンサ応用に向けたMEMS研究開発~半導体プロセスで製造可能なエレクトレットMEMS素子~」

 日本政府が目標とするSociety 5.0(超スマート社会)の実現には、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合したサイバー・フィジカルシステムやデジタルツインとそれらの深化が不可欠である。IoT(Internet of Things)センサは、フィジカル空間のアナログ情報をデジタル情報に変換してサイバー空間に伝えるキーデバイスと言える1)。総務省の情報通信白書2)~3)では、世界のIoTデバイス数は2022年時点で320億台を超え、近年では年率約10%で増加している(図1)。
図1. 世界のIoTデバイス数(文献2、3をもとに筆者が作成)
 各IoTデバイスには複数のセンサが搭載される場合が多く、そのような莫大な数のセンサの到来は、1兆個センサ時代とも呼ばれる。無数のセンサをあらゆる場所に配置して情報収集する環境センシング技術では、小型IoT センサ端末の無線化(電源ケーブルや信号線の有線接続が不要)が有用である。また、サイバー空間でAI/ビッグデータ等の高度な情報処理を利用する場合、多種多様なリアル現象を質の高い(目的に合う)デジタル情報として収集する必要がある。

 ここで、現在の小型IoT無線センサの電源は電池であり、端末数の増大により、電池交換や充電が困難であることは容易に予測できる(課題①)。また、小型センサの基盤となるMEMS(Microelectromechanical Systems:微小電気機械素子)物理量センサは、半導体技術で小型化可能である一方、従来技術では性能の理論限界に近づきつつある(課題②)。

 そこで、私の研究室では、エレクトレットと呼ばれる半永久的に電荷/電気分極を持つ誘電体をMEMS素子に取り入れ、新しいセンサ電源技術およびセンサ高性能化技術を研究開発している。エレクトレットは、マイクロフォンや集塵フィルタとしてよく知られており、近年ではエレクトレットを利用したMEMS環境振動発電技術やMEMSセンサ高感度化技術も研究開発されている。従来のエレクトレットは、その成膜工程または荷電処理において非半導体プロセスによる高温(100~数百℃)/高電圧(数百~数千V)の印加が必要であり、エレクトレットMEMS素子とLSI(半導体集積回路)の一体化(素子の小型化、高性能化に有用)やさらなる量産化に制約があった。我々はこの技術制約を克服するため、半導体プロセスを用いて、常温かつ荷電処理不要で製造可能なエレクトレットをMEMS素子内部に形成する独自手法を開発した4)~5)。詳細は割愛するが、図2にデバイス概念図と試作デバイス写真を示す。これにより、低消費電力・小型IoTセンサへ電力供給するMEMS発電素子の小型化・量産化・LSI一体化(課題①解決へ寄与)と、MEMS物理量センサの高感度化(課題②解決へ寄与)について実現の見通しを得た。 
(a)
(b)
図2. 荷電処理不要の半導体プロセスでエレクトレットを形成したMEMSデバイス
(a)概念図、(b)試作デバイス写真
 本技術シーズを利用した発電素子やセンサに関する複数のプロジェクトについて、現時点で、国立研究開発法人科学技術振興機構、日本学術振興会、民間団体から研究助成を受けている。また、エレクトレットの材料特性評価は有機エレクトロニクスの研究グループと共同実験を進めており、デバイス応用技術については海外研究機関や産業界とも頻繁に議論している。そのため、研究テーマも、デバイス・プロセス開発に加えて回路や実機モジュールの開発、シミュレーション環境構築など、素材-デバイスーシステムのあらゆるレイヤーに拡がりつつある。コロナ禍が一段落した昨今、MEMS研究の醍醐味である異分野連携や学外機関との交流にも学生が積極的に参加しており、多くの面で学生の成長を日々実感している6)。
  
 参考文献
 1) デジタル庁,“デジタル社会の実現に向けた重点計画,” 2023年6月.
 2) 総務省,“令和3年版情報通信白書(PDF 版),” 2021年7月       https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/index.html(参照 2023-11-14).
 3) 総務省,“令和5年版情報通信白書(PDF 版),” 2023年7月https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/pdf/index.html(参照 2023-11-14).
 4) D. Yamane, H. Kayaguchi, K. Kawashima, H. Ishii, and Y. Tanaka,“ MEMS post-processed self-assembled electret for vibratory energy harvesters,” Appl. Phys. Lett., 119, 254102(2021).
 5) 科学技術振興機構.“荷電処理不要のエレクトレット型MEMS環境振動発電素子を開発~無線IoT端末の自立電源として期待~,” 2021年12月https://www.jst.go.jp/pr/announce/20211220/index.html(参照 2023-11-14).
 6) 立命館大学 理工学部機械工学科/大学院理工学研究科機械システム専攻 スマート・マイクロメカトロシステム研究室,https://www.yamane.se.ritsumei.ac.jp/ 
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