機友会ニュースデジタル版第35回 ロボティクス学科 玄相昊 先生 「油圧ロボット研究と教育の試み」

「油圧ロボット研究と教育の試み」

ロボティクス学科・准教授 玄相昊

研究テーマ

ロボティクス学科の玄と申します。本学に着任したのは2010年です。全くコネクションのない職場でしたが、機械システム系の温かく寛大な雰囲気の中で、自由に研究をやらせていただいております。まずはそのことに対して、みなさまに深く感謝申し上げます。

さて、私が運営する「ヒューマノイドシステム研究室」は等身大のヒューマノイドロボットやマニピュレータ、不整地移動ロボット等を研究していますが、その駆動手段としてもっぱら油圧に拘っている点で、世界でも極めて特異な研究室です。数キロワット級の油圧ポンプがロボットの数だけ備えられており、有料の追加実験スペース(写真1)と三相交流の配電盤が各所にないと研究が成り立ちません。

研究背景について述べます。現在、過酷な環境で大きな力を出して作業できる強靭な機械といえば、油圧ショベルが思い浮かぶはずです。事実、ショベルはサイズとアタッチメントを変えて、屋外のあらゆる現場で活用されている、最も優れた「汎用作業機械」でしょう。日本が高い世界的シェアを誇る工業製品でもあります。近年、様々なニーズを受けて、危険な場所でも作業が行えるよう、遠隔で機械の状態を把握し無人稼働するシステムが建機メーカーを中心に開発されています。しかし、機械単独で高度な作業を自動で行う「ロボット化」はほとんど進んでいないのが現状です。

一方、日本が同様に世界的シェアを誇ってきた産業用ロボットにおいては、自動車組立や溶接作業に代表されるように、高精度な繰り返し位置決め制御が要求され、高性能モータと高性能ギヤを組み合わせた電動ロボットが長らくそのニーズに応えてきました。しかし、大きな力を瞬時に発生したり、人間のように微妙に力を加減しながら作業する用途には適していません。近年、人と協調して柔らかく動く「協働ロボット」の開発が盛んですが、これらのロボットのほとんどは従来の電動ロボットの手先や関節に力・トルクセンサを組み込んだものであって、ロボット本体ハードウェアの本質的な革新が進んでいるわけではありません。

このような背景を踏まえ、当研究室では電動ロボットの精密さとショベルの汎用性・強靭さを兼ね備えた、新しい油圧ロボットの可能性(仮説)を探っています。若い学生と一緒に楽しく研究するための方法論として、実用、実用と煩く言わず、ともかく難易度の高い等身大2足歩行型ヒューマノイドロボットを一緒に作って動かすことを研究方針に定めました。多くの紆余曲折がありましたが、現在、無償で部品提供いただいている多くのスポンサー企業の協力を得て、学生の手で開発されたヒューマノイドロボットは、そのパフォーマンスこそ米国Boston Dynamics社には及ばないものの、ようやくしっかり地に足をつけて歩み始めました。遠くの誰かのビデオ映像ではなく、自分達が育ててきた現場で、新しい技術の可能性を目撃することに興奮と感動を覚えざるを得ません。

学生の様子と教育の試み

ロボティクス学科には人型ロボットが登場する映画やアニメの影響を受けて進学してくる学生が毎年少なくないと聞きます。しかし、回生を重ねて勉強するにつれて、人型ロボットがとてつもなく複雑なシステムであることを知り、3回生にもなると敬遠する学生も多いようです。したがって、最終的に当研究室への配属を希望する学生はおそらく、等身大ロボットや、(よくわからないけれども何となく気になる)新油圧技術に並々ならぬ情熱を持つツワモノでしょう。

筆者に課された任務は、学生の情熱に冷や水を注がずに教育を施し、そのうえでしっかり研究を進め、人材輩出と基礎研究成果の両面で社会還元することに尽きます。油圧ロボットはシステムが複雑で、学ぶべき知識が膨大なだけに、これは難題でもあります。就職活動やアルバイトのため、学生がじっくりものを考える時間が激減している事実も見過ごせません。困難な学びに学生をいかに導くかは、大学教員が抱える共通の課題です。状況は決して楽観できませんが、尊敬する諸先輩方の仕事ぶりから、いろいろ学ばせて頂いております。

教育の一つの試みとして、当研究室は2013年から国際ロボット展(毎年東京ビッグサイトで開催)にロボットや機器を動展示するアウトリーチ活動を行ってきました(写真2)。準備には丸1カ月と最低100万円の費用がかかるため、これはリスクのある実験です。今のところ、いろんな困難の中でも学生達はうまく協力して計画的に準備を進め、最後にはデモを成功させて自信をつけています。若者の適応力と柔軟性、そして体力!には驚かされます。学生は多くの技術者や企業経営者との対話の中で自分の研究と社会との接点を感じることができ、さらに学ぶためのモチベーションを得ているようで、この活動の教学的、社会的意義は大きいと考えています。もう少し負担を減らして効果をあげる方法はないものか、試行錯誤は続きます。

写真1 ロボティクス・FAセンター内の実験スペース(トレッドミルと4脚歩行ロボットが見える)

写真2 展示会での記念撮影

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