新任のご挨拶と自己紹介 理工学部機械工学科の久野智子です。良縁によって、今年度より本学に就任いたしました。 私が本学に至るまでの経緯を、少し語らせて頂きます。私は生物系の学部を卒業後、当てもなく派遣会社の生物系の研究職を転々としていました。しかし、研究者となることを諦められず、小林久理眞教授の磁性材料研究室で全く勉強したことがない磁石という未知の分野に挑戦しました。小林教授のもとで約10年間、新しい磁石(新規ThMn12型磁石材料)の開発に携わりました。その間、小林教授に研究者としての才を見いだされ、また、自分でも磁石の分野と相性が良いことに気づきました。そして、博士課程に進む決断をし、東北大学に社会人編入学して博士号を取得しました。 これまでの人生を振り返ると、私は縁によって多くの人々に出会い、様々の御恩を受け、本学にたどり着きました。そして、幸いにも、自らが望んだ学問の世界に身を置いています。学問とは、先人が培った知識と個々の独自の哲学が交じり合い、変化しながら継承されていくものである、私は考えています。 本学に就任でした良縁に感謝し、そして、学問の世界に身を置く者として、今度は私が、かつての私でもある学生たちに、私が受けた恩と人生経験、これからも培っていく知識を継承していきたいと思います。研究、教育の両面で本学に貢献できるよう、励んで参りますので、皆様、今後とも、何卒よろしくお願い致します。 私の研究内容について ~新しい磁石誕生の可能性~ 現在、最強の磁石はネオジム磁石です。ネオジム磁石によって、ハイブリッド自動車を初め、スマートフォンを代表とした商品の小型化、風力発電の発電効率の向上など、多くの製品が実現しました。しかし、エンジンルームのような高温下では、ネオジム磁石は磁力が低下し、磁石として機能しなくなります。そのため、高温下でも使用可能な磁石の開発が求められています。 ネオジム磁石は発明されてから35年以上が経過しています。その磁力は理論限界値の約93%に達しており、さらなる向上が望めません。また、高温化でネオジム磁石を使用するには、希少資源であるジスプロシウムを添加する必要があります。しかし、2011年のレアアース価格高騰以降、ジスプロシウムは供給リスクが課題となりました。そのため、現在、高温下でも使用可能な磁石として、ネオジム磁石を上回る磁力を示す可能性がある新規磁石の開発が求められています。 磁石は鉄の含有量が多いほど高い磁力を示します。そのため、ネオジム磁石より鉄が多いThMn12(1-12型)型磁石材料は高い磁力を示す可能性が高く、新規磁石候補として注目されています。各国で1-12型磁石材料の研究が行われ、日本では国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が先頭に研究を進めています。我々の研究では、実際に1-12型磁石材料がネオジム磁石より高い磁力を有すこと、さらに、その高い磁力を維持した磁石(新規1-12型焼結磁石)の調製が可能であることを確認しました。 高温下における新規1-12型磁石材料の磁力はネオジム磁石より高く、また、使用するレアアース量もネオジム磁石より少量です。そのため、新規1-12型磁石の実用化は、省エネルギー及び省レアアースに多大な貢献をもたらします。