機友会ニュースデジタル版第41回 磯部 展宏 氏(1991年機械工学科卒業)「微小き裂と寿命評価」

「微小き裂と寿命評価」

 磯部 展宏

1991年卒業の磯部です。現在は、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の蒸気タービンの設計部署に勤めています。93年に博士前期課程を修了し、その後、日立製作所に入社、機械研究所に配属となり、ガスタービン、高速炉、蒸気タービンの信頼性評価、強度設計技術にかかわる研究開発に携わってきました。その後、2014年に、三菱重工業と日立製作所の火力部門が統合して設立されたMHPSに転属となり、その1年後に設計部門に異動、現在に至っています。今年で50歳になるので、すでに残り時間の方が少なくなっていますが、ふり返るほどの経歴もありませんので、これまでにやってきた研究の話をさせていただきたいと思います。

大学院では、大南・坂根研で、ガスタービン翼材の高温多軸疲労で修士論文をまとめさせていただいたので、それ以来、発電機器の強度評価、寿命評価に関わり、高温疲労やクリープ疲労に取り組んできました。日立で所属していた部署の研究の特色として、微視損傷、微小き裂に着目した寿命評価というのがありました。通常、疲労試験では、一定の繰返しひずみを加えて試験片を破損させ、その時の寿命(回数)とひずみ範囲の関係(疲労線図)を元に、あれこれと議論することが多いですが、試験を何度か中断し、表面状態を観察し、き裂の発生、成長挙動を追いかけるという作業をよく行っていました。疲労で、き裂が発生、成長して壊れるというのは分かりきったことのようですが、き裂が発生するタイミングや、保持を与えたときにき裂の進展速度がどう変わるかなど、普通に疲労試験をするだけでは分からないデータが得られます。

疲労という事象は、寿命が10000回程度までとなる低サイクル疲労と、破損するまでに数10万回以上の繰返しを要する高サイクル疲労に分けられます。微小き裂の観点からは、低サイクル疲労では寿命のごく初期に0.1mm程度のき裂が発生し、その進展過程が寿命の大半を示します。そのため、破壊力学によるき裂進展評価とも相性がよく、き裂進展に対する保持や酸化の影響を検討することで、寿命低下の要因などを議論することができました。一方、寿命が数万回以上になると、0.1mm程度のき裂が発生するまでに有意な繰返し数が必要になります。以前に、繰返しひずみを与えながら、徐々に引張変形(ひずみ)を加えるという疲労試験を行った際、引張のひずみ量がある値を超えると寿命が低下し、また長寿命となる条件ほど寿命低下率が大きくなるという結果が得られました。当初は、引張ひずみを与えることで、き裂進展が早くなるとか、平均応力効果で説明しようといった検討が行われましたが、寿命低下が生じるのが、寿命が数万回以上の条件であったことから、引張ひずみが微小き裂の発生に影響していると考えて、き裂成長挙動の調査をすると、その通りで、寿命低下する条件では、約0.1mmのき裂発生寿命がほとんど無視できる程度までに低下していることが分かり、微小き裂の発生に対する引張ひずみの影響としてまとめることができました。また、別のケースですが、はめ合い部を持つ構造モデルの疲労試験を行った際、1000回くらいの寿命となる条件で試験すると、丸棒試験片の結果とほぼ同じ寿命になる結果が得られたのですが、10000回を超える条件では、はめ合い部で、接触の影響により微小き裂の発生が早まり、寿命低下することが分かりました。これから、こういった構造物の疲労強度の検証試験を行う際、短寿命の条件で試験を行ってOKとしても、長寿命域の検証にはならないということが言えます。

微視損傷や微小き裂に関する研究は、実構造物の寿命をどう考えるかということにつながり、いい話ではないですが、製品のトラブルがあった場合などに、どのようなプロセスで破壊が生じるかといったことを考える時に役に立ちました。現在は、設計部署にいるので、実験をしながらというよりは、製品に関わりながらになりますが、ものが壊れるときは、どういったメカニズムが働いて、どうすればそれが防げるのかを、少なくとも、あと10年くらい、考え続けるのかなと思っています。

話は変わって、日立に就職したときは、定年までは日立にいるのかなと思っていましたが、MHPS発足、異動で、2015年に関西に戻ってきました。立命館には、中学からお世話になり、高校の時は山岳部に入っていました。こちらに戻ってから、中学、高校の時の同級生と連絡を取るようになったのですが、健康のためか、皆で山を登るようになっていて、それに巻き込まれ、月に2,3回は山に入っています。山岳部は私だけなのですが、多いときは10人以上集まることもあり、30年経過しても衰えない結束力に感心しています。

(写真はそのメンバーで比良山系の武奈ヶ岳に登った時のものです。一番右が筆者。)

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