機友会ニュースデジタル版 第5回 機械工学科 山末英嗣先生「自然科学的研究と社会科学的研究の融合 真の学際的研究を目指して 」

自然科学的研究と社会科学的研究の融合

真の学際的研究を目指して

理工学部機械工学科の山末英嗣と申します.2016年の4月に着任いたしました.着任以来ずっと暗中模索状態で駆け抜けてきた感覚でしたが,1年が経過し,ようやく少しずつ落ち着いてきたという状態です.

私は,東京工業大学で鉄鋼プロセスに関する熱力学の研究で修士,液体金属の熱物性に関する研究で博士の学位を取得しました.その後,京都大学エネルギー科学研究科においてエネルギーの有効利用や資源に関する研究をしてきました.元々は材料畑の人間であり,直接,機械工学に関わる研究をしてきたわけではありませんが,これまで熱力学・熱物性・熱工学に関する研究に従事してきたということで,本学の機械工学科に着任できたのは,研究の継続性という意味でも幸運だったと思います.

さて研究の話に移ると,2015年9月の国連総会で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され,その中の具体的な行動指針として持続可能な開発目標(SDGs)が示されました.これは同時期に採択されたパリ協定と並び,新興国や途上国にも改善を求めるという意味で,非常に野心的な合意といっても良いでしょう.SDGsには17の目標が盛り込まれていますが,懐の広い機械工学科の果たす役割は非常に大きいと考えています.

そのため私の研究室では,下図にあるような,ものづくり教育も含めた三位一体の教育研究活動を行い,SDGsの達成に向けた重要な要素であるエネルギー資源問題の解決をミッションととらえ研究をすすめています.

このうち自然科学的研究では,例えば,マイクロ波を用いた超高速リサイクルプロセスの開発,東南アジアにおいて発生する廃棄物同士の組み合わせによる資源リサイクルプロセスの開発,古代製鉄技術の再生と経験知のサイエンス,航空機用アルミニウム材料の新規リサイクルプロセスの開発,廃液中有用資源回収のための発泡材料の開発,溶融金属の熱物性の測定を通じた「液体」物理学の発展等に注目しています.

一方,社会科学的研究では,ライフサイクル思考を用い実際に開発した材料やプロセスの環境影響評価を行うだけで無く,社会における物質のフローと採掘活動の「見える化」による都市鉱山の「質」の評価,仮想摩擦係数という概念を用いた輸送機関のエネルギー効率の評価,エネルギーセキュリティの概念を組み込んだ再生可能エネルギーの導入可能性評価,食料生産に付随する資源消費など,産業エコロジー学と呼ばれる領域を中心とした研究を行っています.すなわち「材料やプロセスをただ開発するだけで無く,それらが本当に社会に実装可能なのか?」という問いに対する回答を研究対象に含めることをビジョンとしているわけです.このような研究を進めることで,実社会への貢献意識と論理的な思考力の育成を狙っています.なお,教員自身は,ビッグデータ解析とテキストマイニングの研究にも着手しています.

上記は今年度の実際の卒研生の研究テーマです(コンプライアンス遵守のため一部ぼかしていますが・・・).これを見てわかるように,一人一人のテーマが大きく異なっています.教員とのディスカッションにより,このような自分だけのテーマを育て,他の人のテーマに対する質問とディスカッションを繰り返すことで幅広い知見が得られることが,本研究室の特徴かもしれません.

さらに当研究室では「モノづくりの楽しさ」を日本古来の製鉄法「たたら製鉄」を通じて体験してもらいます.これにより,モノづくりの歴史,先人の知恵,現代のモノづくりの叡智を自らの体験を通じて会得できます.たたら製鉄の門戸は研究室外にも開いており,小中高生の皆さんにも依頼に応じて実習を行っています.このあたりは次回の記事で詳しく説明したいと思います.

上述の自然科学的研究と社会科学的研究を両方進めるスタイルは,いわゆる学際的研究と呼ばれる新領域研究です.現在,世界においてこのような学際的研究が強く求められていますが,日本のこの分野の研究は世界でも高い研究レベルを誇っています.一方で,表面上の学際的研究の成果発信に傾倒しすぎてしまい,基礎的な知識が疎かになってしまう場合も散見されます.当研究室では,学生に熱力学,熱物性,熱工学という強力な礎を持ちながら材料・プロセス開発を行い,社会への還元を目的としながら実験科学と社会科学を融合させることで真の学際的研究を行いたいと考えています.

昨年度は2回国際ワークショップを企画しました.これはStockpile for supply chain resilienceという内容の国際ワークショップです.学生さんには運営と発表の両方で活躍してもらいました.

*後日、山末先生第2弾として「たたら製鉄を中心とした世界の伝統製鉄」(仮題)の記事掲載を予定しています。

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